俺マン2011決定
2012/01/27追記
Twitter発のハッシュタグ「#俺マン2011」の誕生と動きの経緯をまとめたエントリーを追加しました。
「『俺マン』って何?」ということで当ブログに辿り着いた方はこちらをご覧下さい。
俺マン2011について(まとめ)
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Twitterでばかりマンガの話をしていて、存在すら忘れられがちなこのブログですが、年末この季節だけは更新します。
今年も恒例「俺マン」こと「俺マンガ大賞」の発表です。「俺マン」はその名の通り、「俺が今年俺を楽しませてくれた作品にかってに贈るマンガ賞」。
例によってたいした基準もありませんが、大枠としては以下のルールで選定しました。
- 選定基準は独断(妥当性より愛情優先)
- 挙げはじめるときりがなくなるので5作品のみに厳選(追記をしない勇気!)
- 対象は該当年1月〜12月に単行本が刊行された作品
- 原則として今年初めて読んだ作品を中心に選定
- 過去受賞作は除外
「5本のみ、追記なし」という縛りには、毎年「5本ですむわけない」「『このマン』なんかに対しても、『下位ラインナップこそ面白い』って散々言ってるのになんで追記もできないんだ」「誰だ、この基準作ったこの低能野郎は」といった怒りを覚えるのですが、残念ながら今まさにキーボードに怒りをぶつけているのがそのルールを(勝手に)作った低能なので、また行き場のない悲しみだけがワールドワイドウェッブに積み重ねられていくことになるわけです。人生ってままなりませんね。
ともあれ、今年も悩みに悩んで選んだベストオブベスト、発表しようと思います。
1:「寿司ガール」(安田弘之)
- 作者: 安田弘之
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2011/10/08
- メディア: コミック
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本作だってそうだ。「頭の上に寿司ネタを乗せた女の子・寿司ガールが、いろんな女の人のところにやってくる話なんですよ」と言ったら、「またキワモノ擬人化か」と誰だって思う。
そうやってバカバカしく読み始めたはずなのに、最初の物語「コハダさん」を読み終える頃には泣いているのだ。寿司ネタ乗っけた女の子で。
寿司ガールと出会う女性たちは、みんな“ダメな子たち”だ。わかっているのに、ろくでもない男に引っかかる。わかっているのに、キツい性格もだらしない自分も変えられない。ご立派な誰かに人生について説教されたら一言も言い返せないだろう。
けれども、“正しくない人生”は“正しい人生”よりも美しくないだろうか? 彼女たちの人生は美しくないのだろうか? 正しさが必要以上に氾濫して、誰もが失敗に怯える時代に、寿司ガールたちは、安田弘之はダメ人間の人生をそっとすくい上げる。おもしろおかしく、でも愛おしく。
安田弘之は油断ならないのだ。
2:「外天楼」(石黒正数)
- 作者: 石黒正数
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2011/10/21
- メディア: コミック
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「外天楼」はそんな石黒の真骨頂だ。物語はエロ本探しに熱を上げる少年たちのささやかな謎解きから始まる。作風はいつもどおり、軽快でユーモラス。しかし、スイスイと読み進めていくと、恐るべきことが明らかになる。「恐るべき」というのは物語の中身の話ではない。石黒が「そこにSFとミステリーが存在することにすら気付かせなかった」ということだ。
これほどの作品には、人生でそう何度も出会えるものではない。そういう安っぽい表現を思わず使ってしまうほど、衝撃的な体験だった。
3:「C SCENE」(武富智)
- 作者: 武富智
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2011/02/18
- メディア: コミック
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「A SCENE」「B SCENE」に続く、武富3冊目の短編集である本作には、あいもかわらず愛ばかりが描かれている。誰かを思って他人にぶつかっていく蛮勇が描かれている。ままならない他人を、そして誰よりもままならない自分を変えたいと願う無謀な意志の輝きが描かれている。
勉強も家庭もうまくいかない女子中学生が走馬燈を見る「どんぐり飴」、夢破れてヤクザとなった男と夫を待ち続ける女が出会う「Yell」、すでに蜜月を通り過ぎた別れ際のカップルがバトミントンで最後のラリーを繰り広げる「スゥィート10ショット」、そして、妻に先立たれた頑固親父が残された妻のノートに触れる大傑作「SUPER HEROINE」。誰も彼もが挫折し、道を踏み外し、あきらめを抱え、後悔している。しかし、たったひとつ、心に美しいものが残っていれば、たぶん生きていくことは悲しいことではないと、思わせてくれる。
30歳にもなって何つー青臭いことを、と自分でも思うけれど、仕方ない。だって、今読み返して泣いているんだから。
4:「竜の学校は山の上」(九井諒子)
- 作者: 九井諒子
- 出版社/メーカー: イースト・プレス
- 発売日: 2011/03/30
- メディア: コミック
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ファンタジーの世界はマンガでは定番の題材であり、この世ならざる場所への想像力に触れることは、創作ならではの喜びだ。だけど、九井諒子という人の魅力は、たぶん実のところそういう“遠くの世界への想像力”ではない。ここで描かれる世界は架空の世界ではあるけれど、そういう嘘の世界のディテールを綿密に積み重ねれば積み重ねるほど、より鮮明に見えてくるのは、現実と同じ人間の姿だ。だからこそ、九井作品には「この世界を生きてみたい」と思わせる力があるんだと思う。
今年立て続けに作品が刊行され、ジワジワと一ジャンルとしての地位を獲得しつつある“ケンタウロスマンガ”を収録した作品集でもある本作。ケンタウロスの奥さんのキュートさに楽しむためだけでも読む価値のある1冊だ。
5:「ひるなかの流星」(やまもり三香)
- 作者: やまもり三香
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2011/10/25
- メディア: コミック
- 購入: 1人 クリック: 38回
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何しろマーガレットだから、恋の話だ。田舎から東京に出てきた主人公・すずめは、到着するなり今どき風の飄々としたイケメンに出会うわけだが、それがなんと居候先の叔父がやっている店の常連。しかも、なんとなんと転校先の先生で、自分の担任。「いくらなんでもそんな偶然……!」とかいう話は、どうでもいいのだ。正確に言えば、どうでもいいくらい読ませるのだ。
住み慣れた生まれ故郷から、知らない街へ出て行く不安や不満と、何かが始まるワクワク感の入り交じった感覚が鮮やかすぎて、割とそんなご都合主義的な部分がどうでも良くなってしまう(事実、今読み返してようやく「すごいご都合展開だな!」ということに気付いた)。
その上、すずめをはじめとする登場人物がみんな魅力的。すずめのマイペースでぼんやりしているけどブレない芯の強さは見ていて気持ちいいし、同級生の馬村くんは実はかなりかわいい。諭吉おじさんはお人好しすぎて愛おしい。
おっさんになってずいぶん経つ僕に、これが現役の中高生にとってリアルかどうかはわからないけれど、ユートピアとしての学園、青春を見せてもらえるのは楽しくて仕方ない。学園少女マンガの王道を読みたい人はぜひ。
以上、今年も悩みに悩んで選んだ今年の「5冊」でした。
言うまでもありませんが、少なくとも僕の「俺マン」に関しては、選出されたからと言って、数あるマンガ賞のように平積みが増えるわけでも、売れ行きが倍増するわけでもありません。特に目新しい作品を重視しているわけでもないので、すでにここで挙がった作品なんてみんな知っているという人もいると思います。
が、「俺マン」というフレーズをTwitter上などで面白がって(?)使ってくださる方もTwitter上でいたようで、「#俺マン2011」なんてハッシュタグも出てきておりました。好きな作品を紹介するというのは、レビューでありつつ、同時に自己紹介的でもあり、誰かと仲良くなったり、盛り上がったりするきっかけにもなると僕は思っております。そういう意味で、別に大勢に影響するでもない「俺マン」にも、それなりに役割はあるのかなとか思いながら、毎年勝手に選んでいます。
今年もたくさんの面白いマンガに個人的な感謝と敬意を込めて、そして、どこかで趣味の合う誰かが新しい作品と出会うことを祈って。「俺マン2011」でした。
【追記】「俺マン」ハッシュタグについて
上でも触れていますが、「俺マン」「俺マン2011」というフレーズやハッシュタグが、光栄なことに一部ではありますが、Twitterで使われているのを拝見しました。
1点だけ。
「俺マン」は僕が勝手に付けている年間フェイバリットリストに、なんとなく付けたタイトルで、僕個人は冒頭に挙げたようなガイドラインで選んでいます。が、Twitterなどで使ってみようという方に「このガイドラインがルールですよー」という気は全然ないですし、僕がなんやかんやと仕切りを入れる企画でもありません。
フレーズなりを「面白いなー」と思ったら流用してくれても全然いいですし(そもそも「俺マン」なんてベタなフレーズ、たぶん探せばもっと前から使ってる人がいます)、好きな基準なり、好きな枠組みで何本選んでも、僕がどうこう言う話ではありません。
「知らない面白いマンガに出会えるといいなー」と思ってみているので、みなさんも「面白いマンガあったなー」とか思いつつ書いてくれたら、楽しいんじゃないかと思っています。
以上、念のための追記でした。